今回は、”昇進はくじ引きで決めるべき理由”というテーマで記事を書いていきます。
「ピーターの法則」聞いたことはあるでしょうか。
出典:Wikipedia
- 能力主義の階層社会では、人間は能力の極限まで出世する。したがって、有能な平(ひら)構成員は、無能な中間管理職になる。
- 時が経つにつれて、人間はみな出世していく。無能な平構成員は、そのまま平構成員の地位に落ち着く。また、有能な平構成員は無能な中間管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は、無能な人間で埋め尽くされる。
- その組織の仕事は、まだ出世の余地のある人間によって遂行される。
会社に属している以上、昇進する人、しない人が存在します。
一般的なイメージだと、仕事ができる優秀な人ほど昇進していくというのが通常の流れだと思います。(ゴマをするのは別として)
しかし今回取り上げるテーマでは、むしろその逆で優秀でない人を昇進させたらどうなるか、そして総合的にみるとくじ引きで昇進する人を決めた方が会社がうまく回るというお話をしていきます。
「昇進はくじ引きで決めるべき」
一体どういうことなのでしょうか?解説していきます。
昇進はランダムで行うべきか?
実は過去に行われた研究によって、優秀な人を選んで昇進させるよりも、ランダムに選んで昇進させる方が、会社としては優秀な組織になることが証明されているといいます。
「ランダムに選んで昇進させたら優秀じゃない人が昇進してしまうかもしれない」
「会社のトップが優秀じゃない会社なんて、優秀な会社なわけがない」
そんな風に思うかもしれませんが、実はこの研究は2010年にイグノーベル賞を受賞しているちゃんとした?研究みたいなのです。
イグノーベル賞とは、人々を笑わせ考えさせた研究に与えられる賞。ノーベル賞のパロディとしてマーク・エイブラハムズが1991年に創設した。
出典:Wikipedia
「イグノーベル賞=人々を笑わせ、考えさせた研究」が一体どのような内容なのか、見ていくこととしましょう。
この研究には、1969年に教育学者ローレンス・J・ピーターにより提唱された、ピーターの法則というものが関わってきます。
冒頭でも引用にて紹介しましたが、ピーターの法則を簡単に一言で説明すると、「会社の中で優秀な人の身を昇進させていくと最終的には会社内のすべての従業員が無能になってしまう」という法則です。
どういうことなのか、一般の会社をイメージして考えてみましょう。
この会社には一般社員、課長、部長、役員などと言った役職があり、その役職の中でも優秀な人を、その上の役職へと昇進させることとします。※優秀な人が昇進するという一般的な考え方をとるとする
まずは全員が一般社員の状態から優秀な人が昇進していくこととして考えてみましょう。
①この会社の一般社員には、与えられた業務を一人で素早く行うことが求められた。
②その結果、与えられた業務を素早く正確にこなせる人たちは周りから優秀な人だと評価されるようになり、これらの人たちは一般社員から課長へと昇進することとなった。(今回は説明をする上で優秀で昇進できる人を有能、優秀ではなかったため昇進できなかった残りの一般社員を無能と表現しています。)
③課長として昇進した一般社員たちだったが、ここで重要なのが課長としてその会社で行う業務は、もちろん一般社員とは異なるということ。課長職では一人で素早く業務をこなす力ではなく、部下をまとめていく力が求められるようになった。
④そのため、一般社員の時には優秀であった人の中で、課長としての能力が足りなかった人は、周りからは無能な上司と思われるようになっていった。(昇進したら必要な能力も変わってしまうため、優秀な人が昇進して無能扱いになってしまうこともあり得る。そして無能であると判断された人に対してはもちろん次の昇進の話など訪れることはない。)
⑤課長として優秀であると判断されたものたちが、次は部長へと昇進することとなる。すると部長には部下をまとめる力ではなく、その上の役員などの経営判断をサポートする力が求められるようになった。
⑥その結果、一般社員から課長へ昇進したときと同じように、課長としては優秀だったのに、部長としては無能な人たちが生まれてしまう。
⑦そして部長から役員へ昇進するときも同じように、部長としては優秀だったのに、役員としては無能な人たちが生まれてしまう。
⑧このような形で昇進が行われ続けてしまった結果、会社全体はこんな風になってしまう↓
会社全体が無能ばっかりになってしまった。。
これこそがピーターの法則なのである。
基本的に会社内では、
- 優秀であるものが昇進していく
- 役職によって必要とされる能力は異なる
といった大きく二つの前提条件があります。
その結果、無能な人そもそも昇進することができずにずっと無能のままだし、優秀な人もいずれは自分には向いていない役職にまで昇進することで、無能な人となってしまう。その結果最終的には組織の全員が無能になってしまうという風に考えることができます。(優秀な人が昇進して無能になるということは、優秀な人を一人失って、されに無能な人が一人増えるということである→この考え方だと会社全体はいずれ無能だらけになってしまう)
ここまでの説明が「ピーターの法則」であり、組織全体を崩壊させてしまう恐れがあるとピーターは考えたといいます。
ピーターの法則は正しいといえるのか?
果たしてピーターの法則は正しいといえるのでしょうか?
優秀な人は昇進してもある程度優秀な気もするし、いくら仕事内容が変わるとはいえ、他の業務で優秀な人の方が、昇進した後の業務も優秀にこなせる確率は高いようにも思えます。
こういった考え方を「常識仮説」と言い、優秀な人は昇進してもある程度は優秀である、というものです。つまり、向き不向きはある中でもそこまで大きくは変わらないという考え方をします。
逆にピーターの法則にしたがったものは、「ピーター仮説」と言い、昇進して仕事内容が変更した場合、その優秀さは昇進前の優秀さとは関係なくバラバラだとするものです。
つまりこのピーター仮説が正しければ、優秀な人が昇進して無能になったり、逆に無能な人を昇進させたら優秀になったりすることもあり得るという訳です。
そのため、このピーター仮説と常識仮説のどちらが正しいのかによって、いったいどんな人物を昇進させていくべきかが変わってくるのです。
これに目を付けたある研究者は、架空の会社を設定しこの二つの仮説に対してシミュレーションを行いました。
①まずは従業員が160人いる会社があるとする。
②そして役職別に下から順に、約80人、40人、20人、10人、5人、1人が所属可能で、従業員それぞれの有能度を1~10の10段階で評価する。
③さらに、会社の末端に優秀な社員がいるよりも、会社のトップに優秀な人物がいた方が、会社全体でみるとより優秀だと考えられるため、それぞれの役職の社員が会社に与える影響度として、トップから順に1、0.9、0.8,0.6,0.4,0.2と振り分けた。(トップにいる人の優秀者がより重要になってくるということ)
④さらには有能度が4を下回ったものはクビにし、年齢も18歳で入社して60歳で退職するものとした。
そしてこの会社に対して、いくつかのシミュレーションを行いました。
優秀な人は昇進しても優秀である、とする常識仮説が正しかった場合と、昇進後の優秀さは昇進前の優秀さとは関係なく決まる、とするピーター仮説が正しかった場合のそれぞれについて、優秀な人の身を昇進させ続けた場合と、無能な人のみを昇進させ続けた場合、この二つの方法で昇進させていった場合に、会社全体の優秀さはどうなっていったかを計算しました。(ちなみにその計算方法については複雑すぎたので割愛)
シミュレーションの結果、優秀な人のみを昇進させていくと、常識仮説では会社はどんどん優秀になっていきましたが、ピーター仮説では会社全体が無能になっていきました。
逆に無能な人の身を昇進させていった場合、常識仮説では会社全体は無能になっていき、ピーター仮説では会社全体は優秀になっていきました。
つまり、常識仮説では優秀な人を、ピーター仮説では無能な人を昇進させた方がいいという結果になりました。
これは予想通りの結果と言えます。優秀な人が昇進しても優秀なままなら、どんどん昇進させた方がいいだろうし、昇進前の優秀さが関係ないのなら、無能がいずれ優秀になるまでどんどん昇進させた方がいいといえます。
ここで問題なのが、果たしてこの仮説のどちらが本当は正しいのか?になってきます。
もしも優秀な人を昇進させたのにピーター仮説が正しかったら、会社は無能だらけになってしまうし、逆に無能な人を昇進させて常識仮説が正しかったらこれも無能だらけになってしまいます。
つまり、常識仮説かピーター仮説、どちらかが完全に正しいことを証明することができなければ優秀なものを昇進させることも無能なものを昇進させることも、大きなリスクを伴うことになります。
そこで研究者たちは昇進する人をランダムに選んだ場合にどうなるのかを考えました。
すると、どちらの仮説が正しかった場合でも、会社全体でみるとわずかに優秀になる、という結果が得られたのです。
つまり、ランダムに昇進させることで、リスクなく会社をより優秀にすることができることが分かったのです。そして研究者たちは、ピーターの法則をもとに考えたこの結果を論文にまとめて発表した結果、なんと2010年のイグノーベル賞を受賞することになったという訳です。
ランダムに選んだ方が効率的だなんて、面白い研究結果だな
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は「昇進はくじ引きで決めるべき理由」について解説してきました。
ピーターの法則といった面白い法則を、研究の話を交えて紹介出来て面白かったです。
私たちが思っている常識の逆を行く仮説を立てて研究を行っているのはとても面白いし、賢いし、単純に感心させれました。
それにしても優秀な人を昇進させるべきではないという法則は革新的だなと思います。そして研究の結果、ランダムに選んで昇進させた方が合理的であるというのも実に面白いなと思いました。
加えてどんな人でも最終的には無能になるまで昇進させられるというのも、なんだかなという感じもしました。どんな状況でも優秀で最後の社長に上り詰めるまで優秀だと思われる人はごく僅かでしょう。
現実問題で、会社の運営を行う際にランダムで抽選で昇進!というのは難しい気もしますが、、
このような法則があるのだと、頭でわかっていれば、「無能」な上司にも寛大になれるのかもしれません(笑)
何事も適材適所、向き不向きがあるのかなと。
ではまた。
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