「完璧な集中」が事故を招く ー ユナイテッド航空173便の悲劇

本の紹介

この記事は、実際にあった航空事故を紹介し、そこからの学べることはいったい何か?について書かれた記事です。

「適当な作業」が事故を招くのではなく、「完璧な集中」こそが事故を招くそのような話からいったい何を学ぶことができるのか?

早速紹介していきます。

【参考図書】

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「完璧な集中」こそが事故を招く

ユナイテッド航空173便の悲劇

※以下引用

1978年12月28日の午後、ユナイテッド航空173便は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港からオレゴン州のポートランド空港に向けて飛び立った。天気は快晴。飛行条件はほぼ完璧だった。

機長はマルバーン・マクブルーム。52歳。飛行経験は25年以上。パイロットになりたいと思ったのは、子供のころ、母親と散歩中に、曲芸飛行士の一座が次の巡業地に向かって飛んでいるのを見たときだった。「ママ、ぼくパイロットになる!」彼は空を見上げ、そう言った。

副操縦士は、45歳のロッド・ビービ。ユナイテッド航空に勤めて13年、5000時間以上の飛行経験を積んでいる。コックピットにいるのはもう一人、航空機関士のフォレスト・メンデンホールだ。41歳で、勤務年数は11年、飛行経験は3900時間。

まさにベテラン揃いで、乗客は何の心配も必要なかった。

最終目的地のポートランドに発ったのは14時47分。この日はクリスマスの3日後で、181人の乗客の大半は休暇を終えて家に帰る途中だった。機体は巡航高度に達し、2時間26分後には目的地のポートランド空港に到着する予定となっていた。

17時10分ごろ、ポートランドの完成から空港への侵入許可が出たため、機長はランディング・ギアのレバーを下げた。通常はこれでスムーズに車輪が下りて定位置にロックされる。しかしこのときは「ドン!」という大きな音とともに機体がガタガタと揺れた。

キャビンの乗客たちは驚いてあたりを見回し、何が起こったのかと口々に話し始めた。コックピットのクルーも不安を隠せない。ランディング・ギアはきちんと定位置にロックされたのか?あの大きな音はなんだったんだ?ギアがロックされると点灯するはずのインジケーター・ランプが一つだけついていないのはどういうことだ?

機長に選択の余地はなかった。彼は管制に無線連絡して、「問題を確認するまで飛行時間を延長したい」と要請した。管制はすぐさま「方位100度へ左旋回してください」と指示を出した。173便はその通り空港南方へ向かい、ポートランド郊外上空で旋回飛行に入る。

クルーは確認作業を始めた。機体下の車輪がロックされているかどうかは目視できないため、代わりのチェックをいくつか行った。彼らは様々な手を尽くした。そしてすべての状況から考えて、車輪は正しくロックされていると思われた

しかし機長はまだ心配だった。確信が持てなかったからだ。車輪なしでの着陸は大きなリスクを伴う。マクブルームは責任ある機長として確証がほしかった

ポートランド上空を旋回しながら、機長は答えを探した。なぜインジケーター・ランプのひとつが緑に点灯していないのか?彼は頭の中で必死に解決方法を探した。

しかしその間に、新たな問題が現れつつあった。

十分な燃料が積まれていたとはいえ、旋回飛行ができる時間は限られているということ。

「完璧」な集中

現地時間の17時46分、残燃料を示す目盛りが「5」に下がった。危機的状況とは言えないが、タイムリミットが迫っている。そのうち残燃料が少ないことを示す警告灯が点滅しはじめ、航空機関士は落ち着かない様子で機長にそれを知らせた。

ところが機長はそれに対して何の反応もせず、車輪の問題にこだわった。胴体着陸をして乗客を危険にさらすわけにはいかない。どうしても、車輪が出ていることの確証がほしかった。

機長は考え続けた。車輪は本当に下りているのか?まだ自分たちが気づいていない確認方法があるのではないか?ほかにできることはもうないのか?

17時50分、航空機関士は再度、燃料不足が進んでいると機長に忠告した。すると機長はタンクにまだ「15分」分の燃料が残っているはずだと主張した。「15分!?」航空機関士は驚いて聞き返した。「そんなに持ちません……15分も猶予はありません」。機長は残りの燃料を誤認していた。時間の感覚を失っていたのだ

燃料は刻々と減り続けている。

副操縦士と航空機関士は、なぜ機長が着陸しようとしないのか理解できなかった。今は燃料不足が一番の脅威のはずだ。車輪はもはや問題ではない。しかし権限を持っているのは機長だ。彼が上司であり、最も経験を積んでいる。

18時06分、燃料不足により第4エンジンがフレームアウト(停止)した。

しかし機長はこれに気づかない。

「……なぜだ?」機長はエンジンが停止したことに驚いているようだった。時間の感覚が完全に麻痺していたのだ。「燃料不足です!」強い口調で返事があった。

実はこのとき、173便は安全に着陸できる状態だった。のちの調査で、車輪は正しく降りてロックされていたことが判明している。もしそうでなかったとしても、ベテランのパイロットなら一人の死者も出さずに胴体着陸できたはずだった。

だがもう遅すぎた。やがて残りの3つのエンジンもフレームアウトし、すべての希望が途絶えた。機体は1分間に約900メートル以上の効果を始め、もはや墜落を防ぐ術はなかった。

マクブルーム機長は地平線に目を凝らし、家やアパートが立ち並ぶ街の中に着陸できる空き地を必死で探した。しかし、彼はまだ何が起こったのかわかっていなかった。燃料はいったいどこへ消えてしまったのか?いつの間にそんな時間が経ったのか?

実際に残っていた最後の数分間の音声記録

ブラックボックスに残っていた、実際の音声記録がある。

18:13:38 機長-すべて止まるぞ(全エンジンがフレームアウトするぞ)

18:13:41 機長-トラウトデール(ポートランドのもう一つの空港)は無理だ

18:13:43 副操縦士-どこにも向かえません

18:13:46 機長-わかった。緊急事態を宣言してくれ

18:13:50 副操縦士(管制塔へ)-ポートランド・タワー、ユナイテッド・ワン・セブンティー・スリー、メーデー、メーデー!こちら……エンジンがフレームアウトしています。墜落しています。空港には間に合いません

18:13:58 管制塔-ユナイテッド・ワン……

18:14:35 (衝撃音)

(ここでテープが終わる)

集中力は時間間隔

車輪の問題にこだわり続けたマクブルーム機長。彼に言えることは認識力が激しく低下していたということだ。機長は燃料切れの危機に気づかなかった。機長は車輪問題の答えを探すのに必死で、迫り来る惨事はまったく無視された。

このような事例はほかにも確認されており、調査によれば、どのケースでもクルーは時間の感覚を失っていた。集中力は、ある意味恐ろしい能力だ。一つのことに集中すると、ほかのことには一切気づけなくなる。

ある実験では、学生を二つのグループに分け、それぞれに課題を出した。一方のグループには、文章を声に出して読むだけの簡単なタスクを、もう一方は難しい単語の定義を答えるという、より複雑なタスクを課した。タスク終了後、それぞれの学生にどのくらいの時間が経過したか尋ねてみると、簡単なタスクを終えた学生は正しい時間を答え、難しいタスクを終えた学生は、実際より40%も短い時間を答えた。彼らにとって時間は飛ぶように過ぎ去っていたのだ。

このことからも、集中力が時間間隔に大きな影響を与えることが分かる。

マクブルーム機長にとってはどうだっただろうか?

そして彼が集中しなければならなかったのは、ただの難しい単語ではないということ。

ランディング・ギアのトラブルについてあらゆる解決策に思考を巡らせ、副操縦士の声を聞き、緊急胴体着陸のリスクについても考えなければならなかった。結果、彼は時間の感覚を失っていた。決して職務に集中していなかったからではない。むしろ、集中しすぎていたのだ。

時間間隔は「突然」麻痺する

事故の数日後、調査員が入院中の機長に面会し、聞き取りを行ったところ、機長は燃料切れが「信じられないほど急に」起こったと答えた。機長はさらに、燃料がタンクから漏れていた可能性を指摘している。迫りくる危機の中、時間の感覚が麻痺していた彼の視点では、それが合理的な結論だった。そうでなければ燃料切れなど起こるはずがなかったのだ。

しかし実際は、ただ、機長の意識から時間の感覚が抜け落ちていただけだった。

事故の教訓を今後にどう生かすか?

1976年6月に調査員が公開した173便の事故報告書は、航空業界に大きな転機をもたらした。新たな訓練方法が導入されたのである。厳しい条件下で慎重に検証され最も効果を上げたアイデアは、さっそく世界中の航空機に導入された。こうした改革により173便の事故をはじめとする1970年代の一連の惨事の後、航空事故率は下がり始めた

173便の事故では10名がなくなったが、その結果得た学習機会によって、より多くの人々の命が救われた。

失敗から学ぶことはもっとも「費用対効果」がよい

失敗は、予想を超えて起こる。世界は複雑で、すべてを理解することは不可能に等しい。

失敗は、「道しるべ」となり我々の意識や行動や戦略をどう更新していけばいいのかを教えてくれる。

なにか失敗したときに、「この失敗を調査するために時間を費やす価値はあるだろうか?」と疑問を持つのは間違いだ。

時間を費やさなかったせいで失うものは大きい。失敗を見過ごせば、学習も更新できないのだから。

最後に

今回は「完璧な集中」こそが事故を招くという内容を紹介しました。

最後までご覧いただきありがとうございます。

今回の事例では、航空事故となっていますが、私たちの身の回りでも「完璧な集中」こそが事故を招くというケースが多く存在すると思います。

「集中力」と「時間間隔」の関係性を認識するとともに、最後の方であったように失敗が起こってしまった後にどのように対処するかが非常に大事なポイントです。

失敗を報告しない、放置する。

そうではなく、失敗を糧に、教訓にし、自己や組織の成長につなげていくことが大事になってきます。

今回参考にさせていただいた本「失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織」は、非常に面白くおすすめです。

今回紹介した事例以外にも様々な事例が紹介されていたり、「失敗」について深く深く掘り下げて書かれており読みごたえが凄まじいです。

まだ2022年入ったばかりですが、読んでよかった本ランキングに入りました。

まだまだ紹介しきれていない面白い話、ためになる話がたくさんありますので、よかったら読んでみてください。

失敗は放置しない、失敗を活かして成長につなげる

気になった方はぜひチェックしてみてください。

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