今回は、丸亀製麺をテーマとした記事を書いていきます。
丸亀製麺はリーズナブルにコシのある美味しいうどんを食べることができるお店で、私もお気に入りのチェーン店の一つでもあります。
そんな丸亀製麺の取った「経営戦略」について解説していきたいと思います。
参考になる内容をお届けしていきますので、ぜひ最後まで見ていってください。
丸亀製麺の停滞と復活
手ごろな価格で美味しいうどんが食べられる、みんな大好き丸亀製麺。そんな丸亀製麺ですが、株式会社トリドールホールディングスの傘下のうどん専門の飲食店チェーンとなります。
2000年に兵庫県に1号店を開店。その後次々と展開していき、全国には820店舗(海外に200店舗)以上を展開しています。
しかしずっと右肩上がりで成長を続けてきたわけではなく、毎月前年割れが続く厳しい時期もありました。その丸亀製麺の危機を救ったのは、株式会社刀の森岡毅さんでした。
森岡さんは、「日本一のマーケター」と呼ばれる人物で、破綻寸前とまで言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を数年で立て直し、世界第四位のテーマパークにまで導いた人物として有名です。
株式会社刀と協業を開始し、施策を実行してからわずか4ヶ月で、前年度割れが続いていた集客は回復し前年度声を果たすことに成功しました。
ここからは、森岡さんがどのような戦略を取り、丸亀製麺をV字回復させたのか?について解説していきます。以下ラインナップです↓
順に見ていきましょう。
丸亀製麺停滞の要因
まずは一つ目、丸亀製麺停滞の要因についてです。
トリドールホールディングスの創業者で社長である粟田貴也さんが、香川県丸亀市の製麺所で出来立てのうどんを食べたのがきっかけで、丸亀製麺を展開することになったといわれています。
讃岐うどんの聖地とされる丸亀市を冠した「丸亀製麺」という店名をつけて、セルフ式うどん専門店として展開を開始しました。
店舗数もかなりの勢いで増やし、丸亀製麺ブランドで展開する店舗は2000年11月に1号店を開店してから17年4か月で1000店舗を達成しました。
さらに2011年にはハワイのワイキキに初の海外店舗を出店しており、このワイキキ店では開店当初から売上高が丸亀製麺でぶっちぎりの1位の店舗になり話題となりました。
最近の和食ブームも追い風になり、日本以外の12の国・地域に200店舗超と海外にもかなりの店舗数を展開しています。
しかしそれまで順調に伸びていた売り上げは、2019年度に前年度割れとなってしまいました。その停滞理由として、
- 店舗展開がすでに800店舗超と飽和状態に近かったこと
- 外食という成熟マーケットであること
- 人口減少に伴い市場全体が縮小していること
- 「うどん」はコモディティ商品で、競合争いが激しいこと
等が挙げられています。
その対策として、新メニューの導入や期間限定のフェアなどで対応はしていたものの、反応が鈍い状況が続いていました。
このときの状況として粟田社長がダイヤモンドオンラインの記事で次のように語っていました。
「いつのまにかお客様の心がつかめなくなっていました。これはもう外部の方に客観的に分析していただくしかないと思いました。」
出典:ダイヤモンドオンライン
そこでUSJが壊滅的な状況から見事に復活したのを目の当たりにしていた粟田社長は、森岡さんにアプローチをして丸亀製麺の危機について相談することになったのです。
経営合理化で詰む
続いては、経営合理化で詰むという内容に移ります。
一店舗に一台、製麺機を置いて粉からうどんを作っているのはうどんチェーン店では丸亀製麺だけでした。
通常、経営合理化を図るのなら、地域ごとにセントラルキッチンを作り、麺をまとめて作り店舗に配送、店舗では茹でるだけ。といった方法を図った方が効率は良いです。そしてこの店舗数が多ければ多いほど、そのスケールメリットは大きくなるといいます。
なので、店舗ごとに粉からうどんを作る丸亀製麺のやり方は、「チェーンストア理論」的にはかなり非効率であるともいえるのです。
合理性を追求するのであれば教科書的な「チェーンストア理論」に則って「製麺機を廃止し、セントラルキッチンをつくり経営合理化を図って無駄を省きましょう」という提案が定石になるわけですが、森岡さんはここで全く真逆の戦略を取ったのです。
それは簡潔に言うと、「店で粉からうどんを作っている」ことをもっとアピールしよう!というものでした。
森岡さんはまず、丸亀製麺の強みとは何か?ということを調査した結果、それは「麺の食感」にあると判断しました。その食感は店で粉から作っているからこそ出せる食感で、そのような「できたて体験」を提供できることこそが丸亀製麺の資産であると再認識したのです。
これはいわば原点回帰と言えます。創業者の粟田社長が香川県丸亀市の製麺所で出来立てのうどんを食べたのが丸亀製麺を展開するきっかけだったわけで、できたてを食べてほしいという想いがあるので、あえてそこは合理化していなかったというわけです。そこをブラしてしまったらもはや丸亀製麺とは言えません。
競合がやっていないならなおさらです。「お店で粉から麺を作ってその場で出来立ての美味しいうどんが食べられる」というのが丸亀製麺の強みであり、お客さんはそこに魅力を感じてお金を払っているわけです。
しかし調査の結果、顧客の5割しか「粉からうどんを作っている」ということを知らなかったということが分かりました。その結果を踏まえ、この魅力をCMなどでアピールしていきましょうということになったのでした。そしてその後わずか3,4ヶ月で前年割れが続いていたのが前年を超える売り上げに回復していったのでした。
この回復劇の前、停滞していた当時はうどんに載せるトッピングで差別化し、例えば「肉盛りうどん」のようなフェア商品を打ち出していましたが、これは徐々に飽きられてしまいました。
このときの判断としてはおそらく「うどんはどこも同じなのでトッピングで競合他社との違いを出すしかないのだろう」というような思い込みがあったのだと考えられます。
差別化すべきなのはトッピングではなく麺の方だったのでした。
たしかに自社の強みは中にいると当たり前になってしまいなかなかわからないものです。なので客観的な目線と定量的な調査によって自社の強みを再確認した結果、他社には真似できない非効率的な部分にこそ強みがあったということが分かったのです。
そこを再確認して強みの部分に経営資源を集中的に投入することで、停滞から抜け出すことに成功しました。
正しい「選択と集中」を行ったことで丸亀製麺はV字回復を果たしたのでした。
こだわりか拡大か
最後は、こだわりか拡大かという話です。
事業を拡大させていくにあたって、特に創業者の方がぶち当たる壁がこだわりor拡大という壁です。
特に飲食店の経営者さんに多い葛藤として、こだわりが強すぎるあまりなかなか事業がスケールしていかないとか、拡大しようと思うと自分が提供したいものが薄まってしまいお客さんに満足してもらえなくなるのではないかというものがあります。
こういった判断を上手にしているのが飲食店でよくベンチマークにされるスターバックスになります。スターバックスは全国に1000店舗以上ありますが、どこにいっても商品・接客・内装・オペレーションどれをとっても良い感じに仕上がっていてブレないブランドです。
スターバックスはかなり早い段階から、日本で完全禁煙性を導入したカフェで有名です。
日本にスタバがやってきたのは1996年。1996年8月に1号店がオープン(銀是松屋通り店)、9月には2号店がオープン(お茶の水村田ビル店)、11月には3号店がオープン(八重洲地下街店)しました。
3号店オープン当時はまだ分煙でした。そもそもスターバックスは本場シアトルでは完全禁煙制でしたが、当時日本は喫煙大国で男性の喫煙率は50%以上、女性の喫煙率は10%程度ありました。そして喫煙率とコーヒー摂取量には相関関係がある(=タバコを吸う人はコーヒーをよく飲む)ということが分かっています。
そのこともあって、多くのコーヒーチェーンでは今でも分煙のところが多いと思います。
そして日本での3号店も分煙でスタートしています。完全禁煙にする前スターバックスの男性客の過半数は喫煙者でした。
男性客の過半数の顧客を失うリスクはありますが、スターバックスが全面禁煙に踏み切った理由としてはスターバックス体験の一部である「店内に入った時のコーヒーの香り」がタバコのにおいで台無しになってしまうということでした。
飲食店では特に五感に訴える機会を喪失してはいけないという大原則があります。
「ゆっくり美味しいコーヒーを飲んでもらう」という提供価値を損なわないような店舗づくり・空間づくりに変えるべきだという判断をしたわけです。そして完全禁煙にすることによって、かえって当時取り込みたかった若い女性が入りやすくなるのではないかと考え、日本3号店となる八重洲地下街店で当時では異例となる完全禁煙に切り替えたのでした。
ここで注意すべきなのは、コーヒーショップやカフェをやるならみんなスターバックスの真似をしたらうまくいくわけではないということです。
もともとのコーヒーのメインユーザーであるおじさん層は、完全禁煙でおしゃれなカフェには逆に入りにくいという問題が生じます。ちょっと待ち時間をつぶしたい、仕事をしたい、一服したいという層にはスターバックスではなく別のコーヒーチェーンが選ばれるという話です。
そういったコーヒーチェーンにはむしろスターバックスのような「おしゃれさ」というのノイズになります。それよりも注文するときのサイズがMかLしかないようなシンプルさや、PCを広げられるといったことの方が求められます。
同じコーヒーチェーンでも、
- スターバックスに求められているのは「ゆっくりと美味しいコーヒーを飲める」
- ほかのコーヒーチェーンでは「一服休憩、待ち合わせ、仕事をする」
といったそれぞれ別の「コーヒーショップに入る目的」があります。なので本質的には競合ではありません。
事業拡大するにあたって数字だけで判断するのなら、こだわりを捨ててセントラルキッチンを作るとか分煙にするという判断は、一つの正解ではある一方いろいろな似たような商品がある中で自社商品を買ってくれている何かしらの理由があるはずです。
お客さんは他社にはない自社の強みにお金を払っているということです。それを把握せずに経営合理化に踏み切ってしまうと、徐々にお客さんは離れていくことになると思います。
丸亀製麺とスターバックスに共通することは、徹底的に自社の強みと向き合ってお客は何にお金を払ってきてくれているのか、その本質部分をきちんと把握したうえで何をして何をやらないのかを決めているということなのです。
おわりに(トリドールの株価を見てみよう)
最後までお読みいただきありがとうございました。今回は丸亀製麺のV字回復について解説してきました。
経営合理化を図るのが通常である中で真逆の戦略、あえて非合理的な戦略で復活を遂げた事例としてとても参考になり、面白いなと思いました。
私自身も丸亀製麺はとても好きなうどん屋さんで、よく通っています。シンプルな釜揚げうどん大盛が好きです。トッピングのネギをこれでもかというくらいにかけていただいています。最近あまり行けていないからそろそろ行きたいななんて。
最後に丸亀製麺=トリドールの株価でも見て終わりたいと思います。
週足チャートでは右肩上がりで上がっていて、24年頭に天井をつけ最近ではヨコヨコが続いている状況です。
株主優待もあって、上記のようなカード型優待券をもらえます。
今後の株価にも注目していきませう。
丸亀製麺は丸亀発祥ではないんだなぁ。かねお。
ではまた。
コメント