無駄を省けば、本当に儲かる?あえて手間をかける4社の経営戦略

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企業ネタ

同じ商品を売るなら、できるだけ安く、速く作った方が儲かりそう。

企業が利益を増やすには、無駄なコストを削減して、効率よく商品やサービスを提供することが大切です。

ところが、世の中には、そんな効率化の流れに逆らっているように見える企業があります。

  • わざわざお店ごとに粉からうどんを作る「丸亀製麺」
  • たった1個のばねの注文にも対応する「東海バネ工業」
  • 売った服を修理し、長く使うことを勧める「パタゴニア」
  • センターを活用しながら、店舗での仕上げにもこだわる「ヤオコー」

どれも、一部分だけを見れば手間やコストがかかる取り組みです。

それなのに、なぜ企業はこうした取り組みを続けるのでしょうか。

以前、丸亀製麺の経営戦略について記事を書いたときにも、この「一見すると非効率なこだわり」が印象に残りました。

今回はさらに視野を広げて、4社の経営戦略を比較してみたいと思います。

調べていくと、単に手間をかけているのではなく、あえて手間を残すことで、お客さんに選ばれる理由を作っているという共通点が見えてきました。

効率化は本当に正解なのか。企業にとって削るべき無駄とは何なのか。一緒に考えていきましょう。

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効率化すれば、企業はもっと儲かる?

企業が効率化を進めるのには、当然理由があります。

作業時間が短くなれば、同じ人数でより多くの商品を作れます。材料をまとめて仕入れれば、仕入れ価格を抑えられる場合もあります。在庫を減らせば、保管場所や、材料に使う資金を減らせます。

こうした改善は、利益を残したり、価格を下げたりするために大切です。

ただ、コストを削るときには、もう一つ見ておきたいものがあります。それは、お客さんがその会社を選んでいる理由です。

仮に、おいしさや困ったときの対応まで削ってしまったらどうでしょうか。作る費用は下がっても、買う人が減れば、利益が増えるとは限りません。

目先のコストを減らすことと、長期的に利益を残すことは、必ずしも同じではありません。

言い換えれば、無駄を減らすつもりが、お客さんに選ばれる理由まで削ってしまうこともあり得ます。

この違いを考えるうえで面白いのが、次の4社になります。

あえて非効率を選ぶ4つの企業

ここでいう「非効率」は、製造や販売の一部分だけを見たときに、手間や費用がかかるという意味です。4社が会社全体で非効率な経営をしている、という話ではありません。

むしろ、その手間を支えるために、別の部分は徹底して効率化している。そこが今回の面白いところだと思います。

丸亀製麺|店内製麺という非効率なこだわり

まず紹介するのは、うどんチェーンの丸亀製麺です。

丸亀製麺では、すべての店舗に製麺機を置き、粉からうどんを作っています。打ち立て・茹でたてのおいしさを提供するためのこだわりですが、経営の効率だけを考えると、少し不思議な仕組みでもあります。

例えば、大きな工場でまとめて麺を製造し、各店舗に配送すれば、設備や製造工程を集約できます。一方、店舗ごとにうどんを作るとなれば、それぞれの店舗に設備を設置し、製麺するための技術も必要になります。

それでも丸亀製麺が店内製麺にこだわるのは、打ち立て・茹でたてのおいしさそのものが、お客さんに届けたい価値だからです。

ここが面白いところだと思います。普通なら削減の対象になりそうな手間が、丸亀製麺にとっては、ほかのお店との差別化につながっているわけです。

もし製造コストを削減できたとしても、その代わりにお客さんが魅力を感じている味や食感が失われてしまったら、本当に効率化に成功したと言えるのでしょうか。

以前の記事では、丸亀製麺がこの「できたて」という強みを改めて打ち出したマーケティング戦略についても紹介しました。気になる方はぜひ読んでみてください。

東海バネ工業|たった1個のばねを作る理由

今回、特に面白いと思ったのが、東海バネ工業という会社です。

東海バネ工業は、オーダーメイドのばねを製造するメーカーです。驚くことに、ばねをたった1個からでも受注しており、公式サイトでは平均製造ロットが5個以下と紹介されています。

普通、製造業では同じ製品を大量に作った方が効率的です。機械の準備や設計にかかる手間も、多くの製品に分散できるからです。ところが、東海バネ工業はその逆ともいえる、少量の注文に対応しています。

なぜ、そんなことをするのでしょうか。

例えば、工場の設備が故障して、特殊なばねが1個だけ必要になったとします。必要なのはたった1個なのに、「100個からでなければ作れません」と言われたら困ってしまうとおもいます。

そんなとき、必要な仕様のばねを必要な数だけ作ってくれる会社があれば、とてもありがたいはずです。

つまり、大量生産では対応しにくいお客さまの困りごとを解決することが、東海バネ工業の強みになっていると考えられます。

さらに面白いのが、材料の在庫です。

井上善海さんの研究論文によると、東海バネ工業は、さまざまなばね用材料を約2年分保有していたと報告されています。

製造業での在庫約2年分と聞くと、ずいぶん多いように感じるのではないでしょうか?

一般的に、在庫を大量に抱えることにはデメリットがあります。材料の購入に資金が必要ですし、保管する場所も確保しなければなりません。そのため、在庫を減らすことは経営改善の一つとして考えられます。

しかし、東海バネ工業の場合は事情が違います。

同社の公式サイトによると、材料によっては仕入れに数か月かかるものもあるそうです。注文を受けてから材料を仕入れていたのでは、お客さんが必要とする時期に間に合わないかもしれません。

そこで、あらかじめ多様な材料を備えることが、少量の特注品に対応するための重要な仕組みになるわけです。

普通なら減らしたくなる在庫が、この会社では「お客さまの注文に応えられる理由」の一つになっている。

私はここが特に面白いと思いました。

そして、東海バネ工業について調べているうちに興味が湧き、私自身もYouTubeで紹介動画を見てみました。

特に印象に残ったのは、職人さんが一つひとつ手作業でばねを作っている様子です。ばねごとに加工に使う治具(加工するものを固定するなどのために使う補助器具)が用意されていたり、細かな作業を重ねていたりと、想像していた以上に手間のかかるものづくりでした。

実際の製造工程を見ると、「ばねを1個から作る」という言葉の重みが少し分かった気がします。

また、動画では社長が「非合理性の合理的さ」について語っていたのも印象的でした。一見すると非合理的に思えることでも、お客さんが本当に必要としているものを提供するためなら、そこには合理的な理由がある。そんな考え方は、今回の記事のテーマにも通じるものだと思います。

ただし、東海バネ工業が何でも非効率に行っているわけではありません。

同社は、職人の技術を大切にする一方で、社内技能検定による技術の継承や、職人技を機械で再現する取り組みも進めています。さらに、過去の設計図面のデータベース化や、材料在庫・設計部門と連携した見積り、納期判断の仕組みも整えています。

ここで気づくのは、手間をかけることと効率化することは、必ずしも反対ではないということです。

少量の注文に対応するために、材料を備え、職人の技術を磨く。その一方で、情報管理や製造工程の一部では効率化を進める。こうした取り組みが組み合わさることで、少量多品種の注文に対応する仕組みが成り立っているのでしょう。

非効率をなくすのではなく、価値のある非効率を残すために効率化する。

そこが個人的に面白いなと思ったポイントでした。

参考動画:東海バネ工業の紹介動画(YouTube)

パタゴニア|新しい服を売るだけが仕事ではない

続いて紹介するのは、アウトドア用品などを販売するパタゴニアです。

服を販売する企業にとって、お客さんに新しい商品を買ってもらうことは売上につながります。そう考えると、パタゴニアの取り組みは少し不思議です。

同社では、販売した製品の修理を受け付けるだけでなく、自分で修理するための動画やお手入れ方法まで公開しています。さらに「Worn Wear」という取り組みでは、不要になった自社製品の買取や、一部直営店での中古ウェア販売も行っています。つまり、新しい商品を販売するだけでなく、すでに持っている製品を長く使うことも後押ししているのです。

しかし、服を修理して使い続ければ、新しい服に買い替える機会は減るかもしれません。修理への対応にも人手や技術が必要なので、短期的な売上やコストだけを考えると、必ずしも効率的な取り組みには見えませんよね。

ところが、お客さんの立場ではどうでしょうか。

少し値段が高くても、丈夫で長く使えて、壊れたときには修理の相談までできる。そんな服であれば、購入するときの安心感も違ってくると思います。売って終わりではなく、その後も長く使えるように支えてくれることが、ブランドへの信頼につながる可能性もあるのではないでしょうか。

ただし、パタゴニアの取り組みは利益だけで説明できるものでもありません。同社は環境への負荷を減らすことを重視しており、製品の長期使用を支援することも、その価値観を反映した取り組みです。なお、すべての製品を修理できるわけではなく、修理の費用や対応範囲も状態によって異なります。

また、修理への取り組みが実際にどれほど利益に貢献しているのかは、今回確認した資料からは分かりません。

それでも、商品を購入した後まで考える姿勢は、企業の価値を考えるうえで興味深いものがあります。

商品を売ることだけでなく、売った後にどう使ってもらうかまで考える。

パタゴニアの取り組みからは、顧客にとっての価値と企業が大切にする理念を、どのように両立させていくのかという経営の面白さを感じました。

ヤオコー|手作りと効率化を両立するスーパー

最後に紹介するのは、関東地方を中心にスーパーマーケットを展開するヤオコーです。

スーパーでは商品の仕入れや物流、品出し、調理など、さまざまな場面で効率化が求められます。例えば、お惣菜をすべて各店舗で一から作るよりも、大きな工場でまとめて製造して配送する方が、効率的に思えますよね。

ところが、ヤオコーでは効率化を進めながらも、店舗での加工を大切にしています。

同社の2023年の統合報告書によると、おはぎやメンチカツなどの看板商品の多くは、デリカ・生鮮センターで途中まで製造した「半製品」の状態で店舗に配送し、最後の工程を店舗で行う仕組みが紹介されています。

つまり、すべてを店舗で一から作るわけでも、工場で完成したものを並べるだけでもありません。

センターでまとめて製造することで品質の安定や店舗の作業負担の軽減を図りながら、店舗での最終加工や販売にも力を入れる。効率化と手作りのどちらかを選ぶのではなく、それぞれの良さを組み合わせているところが面白いと思います。

さらに、2025年の統合報告書では、商品づくりだけでなく、物流や店舗業務の効率化についても紹介されています。例えば、売場の通路に合わせて商品を納品することで、店舗での品出し作業を効率化する工夫も行っています。[9]

お客さんからすると、商品がどのように作られ、運ばれてきたかを意識する機会はあまりありません。しかし、こうした裏側の仕組みを整えることも、店舗運営を支える大切な取り組みです。

ここで改めて考えたいのが、効率化の目的です。

単に人件費や作業時間を削減するのではなく、お客さんに届けたい価値を考えたうえで、どこに時間や人手をかけるのか。ヤオコーの取り組みを見ていると、そんな視点が重要なのだと感じます。

もちろん、すべての商品を店舗で仕上げているわけではありませんし、手作りだから必ずおいしいという単純な話でもありません。

それでも、商品の特徴に合わせてセンターと店舗の役割を分担する仕組みは、効率化と差別化を両立する一つの方法だと思います。

大切なのは、何でも効率化することでも、何でも手間をかけることでもない。

どこに手間をかけ、どこを効率化するのか。その選択こそが、企業の強みにつながるのかもしれません。

4社に共通するのは、顧客にとっての価値

ここまで、4社の経営戦略を紹介してきました。

業種も商品もまったく違いますが、こうして並べてみると、ある共通点が見えてきます。

それは、企業にとって手間やコストがかかることでも、お客さんにとっては価値になる場合があるということです。

それぞれの取り組みを整理してみましょう。

企業 あえて手間をかける部分 お客さんにとっての価値
丸亀製麺 店舗ごとの製麺・調理 打ち立て・茹でたてのおいしさ
東海バネ工業 少量生産、材料在庫、職人の技術 必要なばねを必要な数だけ注文できる
パタゴニア 修理や長期使用のサポート 気に入った製品を長く使える選択肢
ヤオコー センターでの製造と店舗での仕上げ 品質とおいしさを追求した商品

※各社の公表資料をもとに、顧客にとっての価値は筆者が整理しています。

面白いのは、手間をかけている場所もタイミングも、それぞれ違うことです。

4社の手間のかけ方

製造・提供時 丸亀製麺

打ち立て・茹でたてを届ける

注文が来る前から 東海バネ工業

材料・設備・技術を備える

購入した後 パタゴニア

修理や長期使用を支援する

製造・店舗運営 ヤオコー

センターと店舗の役割を分担

丸亀製麺は商品を提供する直前、東海バネ工業は注文が来る前から、パタゴニアは商品を販売した後。そしてヤオコーは、センターと店舗の役割分担によって、手間と効率化を使い分けています。

こうして考えると、企業にとっての「無駄」とは何なのか、少し分からなくなってきませんか?

例えば、東海バネ工業が材料在庫を減らせば、保管費用や購入資金を抑えられるかもしれません。しかし、その結果、必要な注文に対応できなくなってしまったら、コストを減らせたとしても、その会社の強みを失う可能性があります。

一方で、ヤオコーのように、手間をかけたい部分を残すために、ほかの作業を効率化する方法もあります。

つまり、今回の4社を比較して見えてくるのは、単純な「効率化か、非効率か」という二者択一ではありません。

お客さんにとって価値のある手間は残し、その価値を届けるために必要な効率化は進める。

ただし、それが必ず利益の増加につながるとは限りません。また、パタゴニアのように、環境への理念が取り組みの重要な理由になっている企業もあります。

企業のコストだけを見て「無駄」と判断してしまうと、その仕事が持っている本当の役割を見落としてしまうのかもしれません。

非効率なら何でもよいわけではない

ここまで紹介してきた企業を見ると、手間をかけることが経営の強みになるように感じます。

しかし、非効率なことをすれば何でもよいというわけではありません。

例えば、どれだけ手間をかけて商品を作っても、お客さんがその違いに価値を感じなければ、単にコストが増えるだけかもしれません。

安さやスピードを求めているお客さんにとっては、むしろ効率化によって価格を下げたり、提供時間を短縮したりすることの方が魅力的でしょう。

また、手間をかけることで価格が高くなりすぎたり、従業員に過度な負担がかかったりするのであれば、長く続けることも難しくなります。

ここで改めて思い出したいのが、東海バネ工業とヤオコーの取り組みです。

東海バネ工業は、少量の注文に対応するために材料在庫や職人の技術を大切にしていますが、その一方で、機械化や情報管理の効率化も進めています。

ヤオコーも、すべてを店舗で一から作るのではなく、センターでまとめて製造する工程と、店舗で仕上げる工程を使い分けています。

つまり、どちらも非効率を無条件に受け入れているわけではないのです。

お客さんに届けたい価値を明確にしたうえで、その価値を生み出すために必要な手間を残している。

そして、それ以外の部分では効率化を進めているわけです。

もちろん、価値のある手間であっても、かけた費用を回収できるとは限りません。

お客さんがどれだけその価値を求めているのか、必要なコストに見合っているのか、継続できる仕組みになっているのか。

そうしたことを考える必要があります。

今回、さまざまな企業を調べていて感じたのは、効率化そのものが目的になってしまうことの危うさです。

コストを削減することは大切ですが、何のために削減するのかを見失ってはいけません。

大切なのは、手間をかけるかどうかではなく、その手間にどんな意味があるのか。

企業の経営戦略を考えるうえでは、そこに目を向けることが重要なのだと思います。

まとめ|削るべき無駄と、残すべき手間

今回は、丸亀製麺、東海バネ工業、パタゴニア、ヤオコーの4社を取り上げ、あえて手間をかける企業の経営戦略について考えてみました。

業種も取り組みも異なりますが、共通していたのは、単に効率化するのではなく、自分たちが届けたい価値に合わせて、手間をかける部分を選んでいるということです。

特に印象に残ったのは、東海バネ工業でした。

最初は「ばねを1個から作るなんて、ずいぶん非効率だな」と思いましたが、調べていくうちに、その裏側には材料の在庫や職人の技術、それらを支える仕組みがあることを知りました。

実際に動画で製造工程を見てみると、一つひとつのばねを作るために細かな作業が重ねられていて、さらに興味が湧きました。

一見すると無駄に思えることでも、見方を変えれば、ほかの企業にはない強みになる。

一方で、東海バネ工業の機械化やヤオコーのセンター活用を見ると、手間を残すためにも効率化が必要なのだと分かります。

もちろん、非効率な取り組みが必ず利益につながるわけではありません。

それでも、今回の4社を調べたことで、企業を見るときの視点が少し変わった気がします。

「何を削ればコストが下がるのか」だけでなく、「何を削ると、その会社の魅力まで失われてしまうのか」。

この両方を考えることが、経営戦略を理解するうえで大切なのかもしれません。

経営戦略に興味がある方へ

今回のように、企業のさまざまな取り組みがどのようにつながり、強みになっているのか。

そんな経営戦略の考え方をさらに知りたい方には、楠木建さんの『ストーリーとしての競争戦略』という書籍もあります。

出版社の紹介によると、個々の施策をバラバラに考えるのではなく、それらのつながりを「ストーリー」として捉えることがテーマになっています。

バネのようにのびのびしたい()

ではまた。

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